ペソの暴落によっても、世界各国の株価は暴落し、金融市場は大混乱となりましたが、そのペソの暴落に対して、自国の通貨防衛のためにいち早く高金利政策をとったタイが、妬年5月にバーツを売り浴びせられます。
タイは高金利政策をとることにより、巨額の資金が海外より流入し、投資資金が供給過剰となり、株や不動産、収益率の低い事業にまで資金がもたらされるというバブル現象を起こしていました。
そのほかにも、国内の技術基盤が不安定だったとか、実勢とかけ離れたドルペッグ制となっていたなどの問題もあるようですが、大きくは高金利政策による、巨額資金の流入が狙われるもととなったといってよいでバーツが売り浴びせられる直前のタイ経済は、民間の対外債務が900億ドルにものぼっていて、もしもバーツが暴落したら、返済などできるわけがないといった状態でした。
だからこそ、狙われてとんでもないことになるのですが、当時はジョージ・ソロス以外にも、多くのヘッジファンドがタイに投資をしていました。
そんな数多くのヘッジファンドの目の前で、タイはバブル状態をさらけだし、貿易収支が赤字に転落したことなどもあり、「そろそろ危ない。
ここでバーツを切り下げられたら損失を被る」と、リスク回避のためにバーツを売り始めるということがありました。
ポンドのときのように、売り浴びせて儲けるということではなく、このときはいわばリスク回避のためのバーツ売りだったといわれています。
そもそもタイ発のアジアの経済危機が起ったのは、ジョージ・ソロスがイングランド銀行に完勝した7年後のことでした。
ソロスは、英国以外の為替投機にもすべて勝っていたので、手持ち資金は豊富であったに違いありません。
そのため、手持ちのバーツをすべて現物市場に吐き出したうえに、先物市場でも力のかぎりバーツを売り、バーツ暴落時に買い戻したと、このときのことを解説した本もありますが、私は疑問に思っています。
ヨーロッパの通貨の大乱とアジア経済危機とでは、為替の動き方というか、仕組みがずいぶん違うからです。
アジアの経済危機は、数多くのヘッジファンドが、バーツ切り下げをヘッジすることからはじまったと、私は見ています。
ただし、ジョージ・ソロスが本当に関与していなかったどうかは、誰にも分かりません。
そこがまたヘッジファンドの怖いヘッジファンドがバーツを売りはじめたことに気づいた政府は、外貨準備を切り崩してバーツの買い支えをしますが、もともと海外からの資金流入に対して外貨準備が少なすぎるという弱点をもっていたため、すぐさま外貨準備が底をつきます。
バーツ売りは、シンガポール外国為替市場においてもっとも激しくなされたので、タイ以外にも、シンガポール、マレーシア、香港の中央銀行が市場介入を行いますが、それでも売り圧力を跳ね返すことはできません。
このことが起きるまでは、アジアの経済成長は著しく「別世紀はアジアの時代」「アジアは世界の成長センター」などといわれ、アジアの国々も実際にそう思い込んでいたのですが、情況は一変します。
タイ・バーツに端を発して、連鎖的にアジアの経済危機が起きる可能性がでてきたのです。
そこで、次なる政策として、タイ政府はバーツの切り下げを行いました。
このときのバーツの切り下げは、明らかなヘッジファンドへの屈伏でした。
そうして、変動相場制を導入するやいなや、バーツは一挙に2割近くも下げたうえに、なおも下げ止まる気配を見せませんでした。
ペソのときのように、市場は切り下げ幅が小さすぎると判断したわけです。
そのような状態になったときに、ヘッジファンドに本気で売り浴びせられたならば、とんでもないことになると、IMF(国際通貨基金)に支援融資を要請し、IMFは最終的にはアジア全域に対して570億ドルという過去最高の支援を行ったのですが、バーツの通貨危機からはじまったアジアの経済危機を完全に支えきることはできませんでした。
アジア経済危機に際しては、日本からは新宮沢構想が打ち出され、300億ドルの援助がなされましたが、このときアメリカは「資金は財政政策を通じて景気を刺激するために使われるべきではない。
企業と金融の再構築に使われるべきだ」と主張しました。
実質的にはアメリカをはじめとする外国の銀行および外国の債権者の救済を意味しました。
新宮沢構想の300億ドルには、おそらくアジア基軸通貨創設の意図があり、米欧亜すなわち「ドル・ユーロ・円、三極通貨体制」をも見据えたものであったに違アジアの経済危機で、いちばん儲けたのは投機筋であり、経済覇権を伸ばしたのはIMFと、その後ろに控えているアメリカであり、最も大きな被害を受けたのは「アジア通貨基金のぶちこわしはいまでもアジアで恨まれており、多くの役人が怒りをこめて私にその話をしたものだ。
危機の三年後、東アジア諸国はついに結集してアジア通貨基金にかわるものをつくりはじめた。
今度はひそかに、もっと穏健なかたちで制度づくりがなされ、名称もあまり害のないように、創設が決まった場所であるタイ北部の都市の名をとって、『チェンマイ・イニシアティブ』と名付けられたのではありません。
アメリカが断固として反対をし、300億ドルへと減額させ、さらにその使途にまで介入したのは、そのためであったのでしょう。
コロンビア大学のジョセフ.E・スティグリッッ教授は、アジアの経済危機後の状況を、『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』のなかで、次のように記しています。
アジアの国々とその国の企業であったということになります。
アジアの経済危機のなかでは、韓国についてなぜかあまり語られることがないので、最後に韓国の経緯をみておきましょう。
バーツ危機が起きたときの韓国経済のファンダメンタルズは、けっして悪くはありませんでした。
金融部門では、不良債権を抱えてしまっていたのと、巨大財閥による効率の悪い経済に陥っていたということはありました。
そんななかで、タイのバーツがおかしくなりはじめたあたりに、国や企業の格付けを行っていたムーディーズが、韓国そのものの格付けをA1からA2、A3、Baa2にまで落とすことにより、経済危機の引き金をひくことになりました。
ムーディーズは、日本や日本の企業についても遠慮のない格付けをし、しばしば危機に陥れるのですが、格付けが事前に洩れていたり、特定の人が知ることができていたりしたならば、株式におけるインサイダー取引以上の大問題です。
ムーディーズは独自の基準を設けていて、独自の調査をしっかりと行っているので、格付けの信頼性は高く、だからこそ大問題なのです。
なぜならば、それまではA2だった国や企業が、次にBaへと格付けが変わっていたならば、明らかに売りシグナルだからです。
A2からBaへ変わるということが分かれば、目一杯カラ売りをしても、絶対に大丈夫であり、A2からA3に変わっていただけでも、売って間違いないでしょう。
国の格付けが落ちていればその国の国債を売り、企業の格付けが落ちていたならば、その企業の株式を売ればよいのです。
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